【SS】ヴェールの向こうはイケメンだった

はじめから
【つづきから】

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魔王の精神攻撃!

「『月華に語りかける』
窓の外、街明かりに月が淡く輝いていた。部屋の中は、ただ二人の荒い呼吸が淌れるだけだった。
「ごめん…俺、ひどいことを…」
剥き出しになった背中に、涼しい手のひらが添えられる。隣で寄り添う体温が、私を包み込んでいく。
「大丈夫、気にしないでくれ」
甘く響く大草原の男の声に、私は顔を覆った。
今も口の中に残る、あの人の味。崇高なるもの、卑しいもの、全てが入り混じってまぎれていく。
あの日、僕らは衝動のままにエデンの林檎を手にした。光と影がごちゃまぜになり、罪の意識に怯える。
でも、それでもこの過ちが、全てを変えてくれたんだ。
「好きだよ、俺は本当にお前が好きなんだ」
そう告げ、私はあの人の眠る横顔に触れた。月明かりを宿す美しい肌が、私の掌に染みついていく。
これほどまでに、君を求めていたのかもしれない。男として女としてを超えて、ひとつの魂として。
そして月の光の中で、私たちはようやく邂逅することができたのだ。
胸中を渦巻く罪と祈りの狭間で、私は熱い吐息を漏らした。
いつかこの夜を越えられる日が来るのなら、きっと僕らは無垢なる愛に収まることができるだろう。
月の光が二人の絡み付く裸身を優しく撫でた。」

勇者の沈黙の効果が消えた。
「ア、アタシの小説!」

勇者は魔王から紙を奪い取って夜に駆けていった。

END2.BL朗読END